生かされて生きる-014

生かされて生きる

 

先日、チェコ人の友人と話す機会がありました。

彼は、チェコ語、英語、日本語、インドネシア語と4カ国の言語を話します。

そのとき、チェコ人と日本人のビジネススタイルの違いの話になりました。

日本人にとって、会社の職級は非常に重んじられて、

課長、部長、取締役、社長と、その秩序はかなり強固に維持されます。

一般職員は、会社秩序を重んじ、役職者には表面上は敬意を表します。

ところが、チェコ人は違うそうです。

たとえば、現場の職員の間では、部長であろうと、取締役であろうと、

その人物が尊敬できる人物でなければ、まったく敬意を表さないということです。

同じ現場で、役職者でなくても、技能が優れ影響力があり、

人格も優れている人が圧倒的に尊敬されるのです。

だから、チェコ人が日本企業に勤めて、大した力もない役職者にあまり敬意を表しない場合、

チェコ人は”disorder”だとしばしば批判されるのだとか。

要するに、チェコ人は秩序を重んじないと思われるそうなのです。

チェコ人からしてみれば、秩序に縛られすぎて、本音を隠している、となるのです。

面白いですね。

この違いは、人生に対する見方がチェコ人と日本人では根本的に違うからだと思います。

 

 

そこで、彼とその違いについて議論しました。

わたしの見解は次のようになります。

一般的に、ヨーロッパは個人主義思想の国であり、

日本は集団主義思想の国であると言われます。

その場合、日本人は個人主義=利己主義ととらえてしまう場合ことがよくあります。

しかし、ヨーロッパ人の個人主義は利己主義ではありません。

ヨーロパ人の個人主義は、キリスト教の信仰心と結びついています。

キリスト教では、個人の魂の救済は、神に対するある態度が重要です。

それは「悔い改める」という心の態度です。

人間が背負う原罪を心から悔い改め、神の赦しを請うのです。

だから、人間の生き方の根本の態度は、神と私の一対一の契約になります。

永遠不変なる絶対存在の神に対して、

有限存在の私が神に対して心から悔い改め生きることこそが、

神の光に照らされ魂が救済されることになるのです。

そこに、他人や社会が介在することはありません。

神と私の一対一の契約なのです。

その意味においての個人主義です。

だから、神に対して素晴らしい生き方をしている人が尊敬されるのであり、

職級は問題ではないのです。

信仰心に裏付けられた個人主義は、ゆるぎのない信念に基づきます。

だから、チェコ人の生き方は、秩序を重んじないのではなく、

信仰心に裏付けられた生き方に他なりません。

 

 

それに対して、日本人は唯一絶対の神を立てません。

「天」という漢字は、「大」の字になった人の上に一本の線を引きますね。

これは、天が人とつながっていることを意味しています。

ですから、人間と天は分けることができません。

別な見方をすれば、人間は天とつながる共通の「場」に生きています。

日本人は絶対永遠不変の唯一神を立てません。

八百万の神や様々な仏も人間と一緒に、天とつながる共通の「場」に存在します。

そういう意味で、人は神とも仏とも共通の「場」で混在しています。

この「場」を「空」と呼んでもいいでしょう。

ところで、「場」に生きていることが自覚されると、

人間はどういう生き方になるでしょうか。

それは、人は他の存在と一緒にいる共通の「場」に「生かされている」と自覚されます。

そして、生かされていることに感謝の念が生まれます。

生かされている場に感謝して生きるということは、

伝統的には「生かされ生きる」という表現になります。

「生かされ生きる」とは、その生かされている場が、

平和で調和された場所になるように生きることに他なりません。

つまり、場に感謝し、他の存在と調和して生きる生き方になるのです。

 

 

そこで、日本人の美徳は「公に出れば、私を慎む」のです。

人前に出れば、みんなが調和してスムーズにやっていけるように、我を慎むのです。

これこそが、日本人の集団主義の根本的な考え方です。

他の存在やそれを包み込む場に感謝して調和して生きることこそが、

日本人の集団主義思想です。

決して、集団のために生きるのではありません。

私にはやはり、日本的な世界観はしっくり来ますね。

 

 

この話に対して、チェコ人の友人は納得できたようでした。

国境を越えると、人の考え方は非常に違います。

すべてを固定して考え、日本人こそが正しいと執着する必要はありませんね。

違いは違いで理解し、許し合わないと、

いつまでも対立の世界が続いてしまうように思います。

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